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アメリカにて「チップを受け取らない理由」

 2009-08-01
世界最大級のインターネット旅行会社エクスペディアが世界各国のホテル経営者や従業員らに行った調査によると、宿泊客として最も評価が高いのは日本人、最下位はフランス人だった。同社が10日までに発表した。
調査は6月、約4500人のホテル関係者を対象に実施。27カ国の旅行者について、礼儀正しさやチップの額など9項目の評価を尋ねた。

日本人旅行者は礼儀正しさ、清潔さ、静かさ、苦情や不満の少なさなどでトップ。総合点で英国人が2位、カナダ人が3位で続いた。4位はドイツ人、5位はスイス人。

フランス人は外国語への順応性、寛大さ、チップの額などが27カ国中で最下位。礼儀正しさや態度全般も26位だった。総合点で26位はスペイン人、24位でギリシャ人とトルコ人が並んだ。

部門別では、チップの額が最も多いのは米国人、ベストドレッサーはイタリア人だった。(共同)

[2009年7月10日8時39分 日刊スポーツcom.より]



この調査結果に関して、「日本人が苦情を言わないのは、言葉の問題や外人コンプレックスがあるからだ」等、ネット上ではいろいろと意見が飛び交っていたようだ。

確かに的を射ている。添乗員付きの団体ツアーの場合、苦情や不満があったとしても、それがそのままの形で直接ホテル側に伝わることは少ない。添乗員がそれを肩代わりする役割をしているからだ。その「ワンクッション」の有無による差は、かなり大きいと思う。

以前サイパンに行った時、参加ツアーの添乗員と思しき人に、部屋に対する不満をホテルのロビーで大声でぶちまけている日本人観光客を見たことがある。これがもし個人旅行なら、その人が同じような口調でホテルのスタッフに苦情を言うとは思えない。「静かなのは内弁慶故・・・」というのが、大方のところだと思う。

だが、そういった点を差し引いてみても、やはり日本人旅行者の質は世界でも上位にランクされると思う。実際、こちらが日本人だと分かるとホテル側の対応が明らかに変わってくる。サービスや接客態度等、格段に違ったものになるので戸惑う時さえある。

今では6年来の常宿となったアリゾナのホテルに初めて宿泊した時がそうだった。ネットを通じて自分で予約をしていたのだが、チェックインする時にフロントスタッフがパソコンの画面を確認しながら「from Japan, good!」と大きく頷いたのだ。特に気にするようなことでもないと思うのだが、なぜかその時の様子が微妙に引っかかるというか、気になるというか・・・後にこの理由が判明するのだが・・・。

そのホテルには7連泊することになっていた。朝部屋を出る時に、掃除やベッドメイキングのためのチップをベッド脇のテーブルに置いていっていたのだが、3日目の夜部屋に戻ってくると、なぜかそのままチップが残っている。部屋はちゃんと掃除されているし、ベッドメイクも終わっている。「取り忘れ?」と思い、特にそれ以上は気にしなかった。

そして次の日、外出する時にいつもと同じようにチップを置いていった。が、夜になって戻ってくると、またしても1ドル紙幣がそのままの状態で残っている。掃除もベッドメイクも相変わらず完璧だ。「また取り忘れてる・・・」呆れながら、掃除完了の印にテーブルに置かれているカードに書いてある担当者の名前を確認してみた。「Beth」と書かれてある。確かチェックインして以来、毎回同じこの名前がカードに書かれていたのを思い出した。

「さすがに2日間取り忘れはまずいでしょ・・・」と思い、そのまた次の日、ホテルの便箋に大きく「チップ取り忘れないで!」と書き、取り忘れた2日分と合わせ、合計3ドルを一緒に置いて部屋を出た。

そしてその日の夜・・・またしてもチップがそのままの状態で残っているではないか!「え~?!どういうこと?」と思っていると、私が「取り忘れないで!」と書いた便箋に、何やら文字が付け加えられているのに気づいた。見ると「Thanks! But that's OK.(ありがとう!でもいいのよ)」と書かれている。サインはまた同じ「Beth」だ。

「ちょっと待って。『いいのよ』って全然よくないよ~なんで?!」と思い、そのままフロントに行って今までの経緯を説明した。

アメリカ国内でのメイドの給料は決して高くない。言ってみれば「3K」の職業、低所得者層の域に入る。お客からのチップも重要な収入源だ。それを「いいのよ」って・・・。

私の話を聞いたフロントスタッフは、「ああ、そのことね」という感じで特に驚く様子もない。と、そこに当の本人、ベスが通りかかった。フロントスタッフの男性が「あれがベスだよ。ベス!ちょっと!」と呼び止めると、彼女がこちらにやって来た。怪訝そうな顔で私達を見ている。

「何かしら?」「ほら、例のチップの件で。彼女がチップを取らない理由を知りたいんだって」

とりあえず自己紹介して、どうしてチップを取らないのか彼女に聞いてみた。「そういえばメモを残してくれていたわよね。でも本当にいいの。気にしないで」と彼女は笑っている。

「だって部屋の掃除もベッドメイクもやってもらっているのに・・・悪いから受け取って!」と言うと、ベスはこう言った。「だってあなたの部屋、いつもすごく綺麗なんだもの。10分もしないで終わっちゃうから本当に楽なのよ。だからいいの」「そんなこと言われても・・・」「本当にいいから!ね!」「うーん・・・」

フロントスタッフは笑いながら私達のやり取りを見ている。「ねえ、あなたからもベスに何か言ってよ」「それはボクの役割じゃないよ。チップを受け取るのも受け取らないのも彼女の自由だよ」「もう・・・」

確かに私は部屋を汚さない。几帳面なところがあるので、やはり旅先でも家にいる時と同様にちょこちょこ片付けたりすることがある。でもそれはメイドスタッフに悪いとか、そういったものではなく、綺麗で片付いた空間にいることが好きだからだ。言ってみれば自分のため。道楽というか習慣みたいなものなので、「楽だから助かるわ~」と言われてもあまりピンと来ない。

「だからチップは必要ないから」「えー、本当にいいのかなぁ・・・」「いいから、いいから!」そんなこんなで、結局滞在中のチップは「免除」されてしまった・・・。


それ以来、ロビーや廊下、コインランドリールームなどでベスとすれ違う時、ちょっとした立ち話をしたりするようになった。聞けば彼女はメイドリーダーのようで、この仕事も子供が手を離れて時間ができたので、いわばちょっとしたパート感覚でやっているようだった。ご主人は小さいながらも建築関係の会社を興し、ものすごく裕福とまではいかないが、そこそこ快適な生活ができる収入はあるとのことだった。

まあその辺のところは安心したのだが、でもやっぱりすっきりしない。彼女の仕事に対する報酬なのだから受け取るべきだと思うのだが、相変わらずベスは頑として「チップは要らない」と言う。

「何かお金に代わるもの・・・」と考えていた時、ふと思いついてスーツケースを開けた。「これなら受け取ってくれるかも」と、アメリカ人の友人達に大好評で、お土産に持ってきていた「柿の種」と「コ○ラのマーチ」を取り出した。

日本のお菓子は世界で1~2位を争うクオリティーだと思う。何というか、すべてが「繊細」なのだ。特に「コ○ラの・・・」などは、中に入っているコアラの模様が1個ずつ異なるなど、アメリカではまずあり得ないタイプのお菓子なのだ。全体的に「大味」のアメリカ物に比べると、レベルの差は歴然だ。

今まで私がアメリカの友人達にお土産で持っていたお菓子で特に人気があったのは、「柿の種」「コ○ラのマーチ」「カ○ル」「チーズおか○」「きのこの○」「たけのこの○」だった。特に「柿の種」は大人にも子供にも人気があって、「また買ってきて」と頼まれることが多い。

「あのね、これ日本のお菓子なんだけど、よかったらどうぞ」「まあ!なんてキュートなパッケージなの!これコアラでしょ?子供が喜ぶわ。ありがとう!」と受け取ってくれた。「こっちは『柿の種」っていって、ちょっと辛いライススナックだから」「うちの家族はメキシコ系だから辛いのは大好きよ!」

そして翌日、外出先から戻ると、テーブルの上にメモが置いてあった。ベスの字で、「家族全員が大喜び!本当に美味しかった!ありがとう!」と書いてある。

それ以来、そのホテルに泊まる時は、必ず例のお菓子をいくつか買っていくことにしている。ホテルスタッフの休憩室でも大好評のようだ。お菓子も立派な文化交流の材料になるのだ。


今ではすっかり顔なじみになったベスやその他のスタッフ達は口を揃えて言う。「日本人旅行者の部屋はいつも綺麗だから助かる。大声で騒いだりもしないし、マナーも良い。EXCELLENTだね」

以前そのホテルにアジア某国の観光客が団体で泊まった時は、本当に大変だったらしい。他の宿泊客から騒音の苦情や、敷地内にあるプールの使い方のマナーに関する苦情が殺到して、対応が大変だったとのこと。「部屋なんかもう大災害が起きた後みたいに散らかってたわ」と、ベスが言っていた。

「容姿は似てるけど、全然違う」やはり日本人観光客に対する評価は断トツに高い。「立つ鳥跡を跡を濁さず」の精神が、やはり日本人に染みついているからだろうか。すべての日本人がそうとは限らないが、やはり評価されると嬉しいものである。


「I'm back!(ただいま~)」「Welcome back!(おかえりなさい!」の後は、いつものお約束のやり取りだ。「分かってると思うけど」「チップは要らないんでしょ?(笑)」「そのとおり!(笑)」「あ、また例のヤツ持って来たよ」「まあ嬉しい!みんなで楽しみにしてたのよ!」「だったらさ、今度から『日本人旅行者のチップは柿の種とコ○ラのマーチにしてください』って予約の時に伝えておいたら?」「いいわね、それ(笑)」

ある時、部屋に戻ってドアを開けた瞬間、チリソースの匂いがする。「?」と思ったら、テーブルの上にアルミホイルを被せた物が置いてある。ホイルを取ると、手作りのタコスがお皿に乗っている。添えられているメモを読むと、「外食ばかりは飽きるでしょ?よかったらどうぞ。 ベス」と書いてあった。

彼女の手作りタコスを食べながら、しみじみ思った。ちょっとした気遣いというか、心がけからいろいろなものが生まれるんだなぁ―と。宿泊客とホテルのメイド。通常だったらお互いの顔や名前、その存在すら知らないままで終わるのが「普通」の関係だ。

だが今私は、もしかしたら存在を一生知らないままで終わったかもしれない人の作ったタコスを食べている―。何だかとても不思議な気がした。人の縁というものは、本当に何がきっかけになるかわからない。


そろそろまた、「柿の種」と「コ○ラのマーチ」を持って、アリゾナにでも行ってこようかな・・・。

カテゴリ :異文化見聞録―「違う」っておもしろい! トラックバック(-) コメント(-)
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