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沈黙の悲しみ(4)流説と虚妄の害

 2009-04-02
肉親に自死者がいるというだけで、何か遺伝性の悪い病気を持っている家系のように忌み嫌う人もいる。「自殺は伝染する」「自殺は遺伝する」実際そんなふうに思い込み、信じ込んでいる人も多い。かと思えば「家系が呪われているんじゃないか」「悪霊に取り憑かれたせい」と真剣にオカルト論を展開する人もいる。

どこの未開地の話かと思うような反応だが、現在の日本に横行している自死に対する偏見の実情はこんなものだ。極めてプライベートな部分が関わっている為、なかなかその事実や背景が公に明かされないこと、社会的に「触れてはいけないもの、タブー」としての認識が強いということ等も関係して、勝手な憶測や想像だけが一人歩きする傾向が強いせいもあると思う。

「何だかよくわからないけど、不気味で得体の知れないもの」結局のところ、多くの人の自死に対する認識はこの程度だ。実態が分からないために生まれる根拠のない風評や無知が、遺族を余計に苦しめる。


「自死に至った人達の8割~9割は鬱、または抑鬱状態にあった」という調査報告がされている。私は実際にはほぼ100%に近いと思う。やはり自ら死を選ぶ、そういったことを考えるということは「普通」の状態、通常の精神状態ではない。

「鬱病は心の病気、精神に問題がある人が罹る病気」「性格や心に問題があるから鬱になる」と、世の中の大半の人がそう思い込んでいる。

確かにその人の本来の性格や気質、ストレス等が発症の引き金や下地になったりすることもあるが、セロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経伝達物質の減少・機能の低下等が原因で発症するものでもあるのだ。また、体の別の部位の病気が原因で、鬱病の症状が出ることもある。「心の病気」と、単純に分類できる性質のものではない。


血の繋がった肉親を自死で失った人達の多くは、「自分にも同じ遺伝子、自死を引き起こすような遺伝子があるのではないか?自分もいつか同じことをするのではないか?」」という不安に苛まれる。特に、身内に自死者が何人もいたりする場合、余計に不安が増すようだ。しかし、自死は遺伝しない。自死を引き起こす遺伝子といったものもないと思う。

あえて言うのであれば、「自死のきっかけになることが多いと言われる鬱病になりやすい体質」というものは遺伝すると思う。肉親であれば、やはり体質や細胞もよく似ていたりする。もし親が脳内神経伝達物質の減少や低下が起こりやすい体質であれば、子供も同様の体質になりやすい。

身内に鬱病が多かったり、鬱病が原因での自死者が多いのであれば、それは呪いでも遺伝でもなく、「体質が似ているから、体質が似ていたから」というだけの話だ。もしくは、考えや価値観が似やすい身内であるが故に、よく似た思考や行動のパターンに陥りやすいせいで、同じような行動を取る可能性が増えるためだ。

身近な誰かが自死を選択した場合、良い悪いは別として、「こういう方法(自死)もありなんだ」と、「選択肢の一つ」として無意識に刷り込まれるといった影響もあると思う。故人によって「タブー」が既に破られているので、同じ道を選択しやすくなる確率も、それに伴ってどうしても高くなる。

しかし、誰にでも、どんな人にも自死の可能性はある。そもそも「自死するか、しないか」2つに1つの選択しかないのだから。「自分は絶対にしない」と今思っていても、いつどこで、その気持ちが変わるか分からない。人の感情や心に関しては、「絶対」という言葉は存在しない。

「明日はわが身」自死に関して、この言葉は誰にでも当てはまる。そして、自分が自死遺族になる可能性も、どんな人にも50%の確率で存在するのだ。

自殺の遺伝子とか、呪いとか、根拠のない都市伝説のようなものだ。真実を知ろうとも、確かめようともせず、「~らしい」という又聞きの風評を鵜呑みにするその姿勢が間違った認識を呼ぶ。自死者の死因等、ゴシップには好奇心満々で、背後にある真実には無関心。まさに本末転倒だ。


10年ほど前、体調を崩したことがあった。その頃、公私共にいろいろなことがあり、原因はそういったストレスからくる自律神経の乱れ。その当時、私には母親同然の人がいた。私は彼女を信頼していたし、母の自死に関する詳細も全部話していた。

しかしある時、妙な話が耳に入ってきた。その人が、私に関することをあれこれ周りの人に話しているというのだ。それが一人や二人ではなく、「どうしてこの人まで?」という広範囲で、いろいろな人に話しているという。その内容は、誹謗中傷以外の何物でもなかった。何よりも、まったく根拠のないでたらめの、事実無根の内容だった。

「あの子には母親と同じ遺伝子が流れているから、神経がおかしくなった」とか「自殺した母親から生まれたから頭がおかしい」等、俄かには信じがたいことをあれこれ吹聴していた。特に「あの子の母親は頭がおかしくなって自殺した」という件(くだり)では、呆然とするしかなかった。

いろいろな人に確認したところ、その内容は一致していた。怒りよりも、悲しみのほうが大きかった。これがすべて事実なら、まだ納得できる。その人がどういった経緯で、どんな意図をもってそういったことを言ったのかは分からない。私の悪口を言うのも構わない。あくまでもそれが「事実」であるのなら。

しかし彼女の言葉は違っていた。私に関することも、母や母の自死に関することも、すべて事実無根。全部創作、作り話と言ってもいいものだった。

数年前、共通の知人を通じて、彼女が「謝罪したい」と言ってきた。お断りした。二度と会って話す気もないし、「まったく見当違いのこと」で謝罪されても無意味でしかない。

多かれ少なかれ、こういった噂や誹謗中傷の類を多くの自死遺族が経験している。

「本当は保険金目当てに殺されてたりして」「死にたくて死んだんだから幸せじゃないか」「首吊りがあった家に平気で住んでいられるなんて信じられない」「自殺者の出た家の人となんて結婚させられない。うちの家系にそういう遺伝子が入られたらかなわない」「親御さんがそういうことになったんだから、普通の結婚はもう無理だろうな。まあ一人でも生きていけるようにがんばりなさい」

私がお会いした遺族の方達が、今までに、実際に言われたことや耳にしたことだ。これはほんの一部でしかない。

間違った情報や認識が、どれだけ遺族を傷つけ、孤独に追いやっていくものなのか、それは実際に経験した者でなければ分からない。無知から生まれる罪は、思っている以上に重く大きいものなのだ。

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